19
「・・・なんとか助かったな」
「―――んー?ここどこ?」
「ひとり呑気なやつがいるー。こっちは大変だったのにさ〜」
「へ?」
ゼーゼーという息切れと、「助かった・・・」と口々に言うみんなの声で、私は目を覚ました。
私は床に寝かされているわけでもなく、だからといって立っているわけでもなく。
左の方に、人肌のようなものが感じられた。
そして辺りを見渡すと、壁も床も真っ白で。
見覚えのない場所だったもんだから声に出したら、ノーマが少し不満そうな声を出す。
「みんな、足とか濡れてない?」
「潜水艦が水没しかかってな・・・少し濡れたんだ」
「大変だったのねー」
「人ごとみたく言うな」
斜め前にいるクロエに訊ねると、少し青ざめながらこう答えてくれた。
つーか、私って今どうなってるの。
「・・・・・・・・うぉ!?すぐ横に生肌が!」
「相変わらずの変態じゃのう!」
「その声は・・・モーゼス?」
「おう」
辺りを見回すのを止め、人肌を感じる方を見てみれば、私の顔すぐ横には生肌が。
服がなくて本当に生肌。
思いがけないことに叫ぶと、すぐ上の方からモーゼスの声が聞こえてきた。
私の呼びかけに答えると、モーゼスは私をゆっくりと地面に下ろす。
どうやら、私はモーゼスに抱えられていたらしい。
「モーゼスがずっと抱えてくれてたの?」
久しぶりの床の感触を感じつつ、私より背の高いモーゼスを見上げ訊ねる。
それにモーゼスは頷いた。
「そりゃ悪いことしたねー。重かったでしょ?」
「いや、案外軽かったからの。平気じゃ」
「案外ってのが気にかかるけど・・・。ま、いっか。ありがとね」
案外ってことは、私が重いと思ってたのかこの野郎。
少しムカつきつつも、「軽かった」と言ってくれたことに気をよくした私は、彼に笑顔を向けながら礼を言った。
それよりも
「さっきも言ったけど・・・ここどこ?」
「雪花の遺跡だ」
周りを見渡しながらの問いかけに、今度はセネルが返事をしてくれる。
『雪花の遺跡』ということは、目的地に着いたのか。
私が気絶してる間に結構進んだなー・・・って、
「ちょっとセネル!」
「なんだ?」
「なんだ?じゃない!ポッポの工房の所で殴ったのセネルでしょ!」
「よくわかったな」
「だーもー!セネルのせいで、またジェイにお別れの言葉言えなかったじゃない!」
セネルの顔を見て、私は一気に思い出す。
愛しのジェイと一緒にいたのに、セネルが後ろから殴ってきて。
そのせいで私は今の今まで気絶してたんだ。
セネルが殴ったせいで、ジェイとの別れを堪能できなかったんだ!
萌えを奪われた怒りを露にする私に対し、セネルはしれっと答える。
「そうでもしなかったら、先に進めなかったからな」
「・・・・・・・・・・・その通りでございます」
セネルの言葉に言い返せず、私は口を閉ざした。
彼の意見は正論です。ごもっともです。
「―――そろそろ進むぞ」
私達の会話を一通り見ていたウィルはこう言い、真っ白い床を進み出す。
先へどんどん進むウィルの後を、私達は急いで追った。
++++++++
「星印・・・あった!」
先頭を歩いていたウィルをいつの間にか追い越したノーマが、先に見える壁を指差し駆け出した。
その『星印』の意味がわからない。
だけどみんなはそれにツッコまないし。
なんとなく私も黙ったまま、ノーマの後を追った。
「その星印がどうしたの?」
「ジェージェーからの情報でね・・・」
「ジェイ!?ま、まさかその星印のついた壁の向こうにはジェイからのプレゼントが・・・っ!?」
「んなもん入ってるわけないだろ。敵のアジトに」
「ジェイからの情報」というキーワードに興奮し、思わず妄想ワールドへと足を伸ばしそうになった。
そんな私へセネルが冷静にツッコミを入れてくれたおかげで、私は現実世界へ留まることに成功。危ねぇ。
私の妄想に呆れつつ、ノーマが説明を続ける。
「星印のついた壁を調べてみてくださいってさ」
そう言うと、ノーマは壁を眺めた後色々と調べ出す。
ゲームだったら、なんか特別な仕掛けがあったりどっかにスイッチがあるんだろうけど。
こういう仕掛け関係はトレジャーハンターのノーマにおまかせにする。
色んな遺跡を渡り歩いて、慣れているだろうし。
「んー・・・」
「なんかわかったか?」
「ギクッ」
暫く経っても何も起こらないので、セネルが後ろの方からノーマに問いかける。
セネルの言葉に、ノーマはわかりやすい反応をした。
どうやらお手上げ状態らしい。
「ノーマ」
「・・・なに?」
「こういうわけわかんない仕掛けはさ、」
「仕掛けは?」
「叩くか蹴るかのどっちかしちゃえばいいよ」
「なるほど!」
私の助言に納得するノーマ。
そして私の助言通り、彼女は思いっきり壁を蹴った。
そんなんで開くわけないだろ・・・というみんなの視線の中、星印の壁はあっさりと開く。
「よっしゃ!」
壁が開いた喜びで、私達は手をパチンッと合わせる。
その後みんなの方を振り返り、「どうよ?」という視線を送ってやった。
へへん!これぞ「古いテレビ戦法」!(意味不明)
「よーっし!どんなお宝があるか拝見しようじゃないの!」
「レッツゴー!」
何はともあれ、やっと開いた壁の向こうへ私とノーマは元気よく駆けていく。
いまだ「こんな開け方でいいのか・・・?」という疑問の残るみんなも、私達の後をついて来ていた。
「こ、この場所は・・・!」
壁の向こうの光に思わず目を顰めつつ、私達は辺りを見回した。
地面は土。
そして明るい太陽と、心地いい風が吹いている。
そのことから、ここは外だということがわかって。
それと同時に、この場所に見覚えがあることに気づく。
一番早くに気づいたらしいクロエが、声を震わせながら言ったのが後ろの方から聞こえた。
「なーんか、見覚えのあるような気のする場所じゃの」
「気のするじゃなくて、見覚えがあるんだよ」
クロエの後に、なんだか呑気な声が聞こえノーマがツッコんだ。
そう。ここは愛しのジェイから「命を賭けて」情報を貰った場所。
雪花の遺跡に入ってすぐの所だった。
モーゼスの鈍感さに呆れつつ、セネルは溜息をつく。
ウィルも周りを見回しながら、小さく呟いた。
「ジェイのやつめ・・・まんまとやられたな」
「まーまー、そこはジェイの愛らしさで許してやってよ」
「はそればっかだな」
「こういうオチャメさが可愛いんじゃんよ」
「オチャメで済まされる問題かこれ」
私の言葉に、セネル、ノーマとウィルが呆れながらもしょうがないかと納得。
モーゼスはいまだに理解してないし。
クロエだけは、くやしそうに「ジェイめ・・・!」と声を震わせながら呟いている。
「・・・まあ、逃げ道は確保できた。それでよしとしよう」
いつものようにウィルがまとめ、私達は再び雪花の遺跡の中へと戻っていった。
++++++++
「ねぇクロエ」
「なんだ?」
雪花の遺跡を奥へ奥へと進む私達。
最初の頃は真っ白い壁と床だけだったのも、奥へと進むと辺りには色んなコードみたいなものがたくさんあった。
『遺跡』のはずなのに、微妙に近代化してませんか?
入り口とは違って警備が手薄く、私達は安心しながら進んでいく。
まったりと歩いている中、気になったのはやっぱりクロエ。
さっき、ジェイに騙されたと気づいたときに一番怒っていた彼女。
「まだジェイのこと怒ってる?」
「!・・・あ、いや・・・」
私の質問に、ばつが悪そうに目を泳がせるクロエ。
やっぱり怒ってるんだ。
「怒らないであげてよー。きっとジェイも悪気は・・・あっただろうけどさ」
「なんのフォローにもなってなくないか・・・?」
「あー・・・じゃあきっと、ポッポの策略よ」
「ポッポの・・・?」
どうにかジェイのフォローができないかと、私は必死に考える。
「『ジェイ・・・ポッポ、潜水艦の実験したいキュ〜v』とか言って、ジェイを誘惑したのよ」
「・・・うわぁ・・・」
「だからジェイは悪くないの!だから・・・」
だから、ジェイを怒らないであげて。
そういう視線をクロエに送ると、彼女は困ったような顔をする。
やっぱり許す気にはならないらしい。
どうしてそんなに怒るのか?
確かに、ジェイは簡単な抜け道を教えず、あえて命がけの道の情報を私達に教えた。
そりゃあちょっとはムカつくだろうけど、結局は雪花の遺跡に潜入できたんだし、結果オーライだと思うんだけどな・・・。
「・・・は、本当にジェイが好きなんだな」
優しいクロエがここまで怒る理由を考えていると、突然彼女にこう言われた。
「そりゃあ好きだよ!すっごく可愛いじゃん!萌えるじゃん!」
「そ、その『モエ』というのはわからないが・・・、確かに可愛らしいな」
「でしょ?あーもう今すぐ抱きしめたいいいい!」
「そこ、変な妄想するなよ」
愛しいジェイを思い出し、思わず妄想しそうになると、セネルの言葉がそれを止める。
おっと危ねぇ。クロエの前で妄想するところだった・・・!
「セネル助かったよ!」
「?」
「危うくクロエの前で妄想するところで、変態呼ばわりされるとこだった・・・!」
「あー、それなら大丈夫だろ」
「?なんで?」
私の質問に、セネルは一呼吸置いてから
「最初から変態だって、みんなわかってるから」
こう言った。
「ちょっと!それって失礼じゃ・・・」
「他のやつらにきいてみたらどうだ」
「他って・・・」
セネルに言われ、他のみんなに視線を向ける。
―――と、みんなは一斉に顔を背けた。
「・・・・・あの、」
「さー、魔物倒そー!」
「そ、そうだな!」
「ワイが一番多く倒しちゃる!」
「魔物の観察でもしよう。うん」
そして一斉に戦闘へ入り、ダーッと先へ進んでしまった。
引き攣る顔を抑えられず、みんなが去った場所を呆然と眺める。
隣に立っているセネルは「な」とみんなを指差しながら言ってきた。
「・・・・・なんか、ものすごく傷ついた・・・!」
「変態だと思われてもしょうがない行動とってるだろお前」
「だって本能のままに生きてるんだもの!」
「たまには我慢とかしたらどうだ」
力みながら言う私に、セネルは溜息をつく。
それでも、他のみんなとは違って私と一緒に歩いてくれている彼は優しい。
ありがたやありがたや。
「セネルー」
「ん?」
「私傷ついたー」
「棒読みで言われてもな」
そう言いつつ、セネルは私の頭を「よしよし」と撫でる。
その手は暖かくて、とても安心感のある手。
ああ、これがお兄ちゃんというものかとひとり納得してたり。
これであのシスコンっぷりがなかったらな・・・。
あ、でも最近は見てない気もするような・・・。
「さっさとみんなに追いつくぞ」
「へーい」
セネルに言われ、私は他のみんなの後を追って駆け出した。
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無駄な会話がありすぎて先に進みません・・・。