16
「ここが巨大風穴か。本当に大きな穴なんだな」
巨大風穴に着き、クロエは下を眺めながらそう言った。
クロエが覗き込んでいるその穴は、とても深く、底が見えないほど。
「風穴」と呼ばれるだけあって、穴からは心地良い風が吹いてくる。
穴を覗き込むクロエの隣へ、モーゼスを連れて移動する。
不思議そうにしていたモーゼスだったけど、大人しくしていた。
「深さはどんくらいなんだろ?よし、モーゼスを落として調べてみよう」
「ちょお待て!背中を押すのはやめえっ!!」
そしてそのまま穴ギリギリの所へモーゼスを立たせ、落とそうとする。
私が背中を押そうと手を当てると、焦ったようにモーゼスが叫んだ。
「なに?」
「なに?じゃないじゃろ!ワイを殺す気か!?」
「いやだなー、人聞きの悪い。深さを知るためにモーゼスで実験してみるだけよ」
「最悪じゃ!」
落とされてたまるかと、モーゼスは急いで場所を移動する。
そして私から遠く離れたノーマの後ろにこそっと隠れた。
ノーマより断然背の高い彼は、まったく隠れていなかったけれど。
自分の後ろに隠れるモーゼスを見て、鬱陶しそうにノーマはモーゼスを見た。
「ちょっとモーすけー、セクハラ」
「何もしとらんじゃろ!」
「存在自体がセクハラ。上半身裸って!猥褻物め!」
ノーマに猥褻物と言われたモーゼスは少し落ち込んでいる。
床にしゃがみ、「の」の字を書いて、悲しみのオーラを出していた。
「猥褻関係ならと一緒だな」
「ちょっとセネル!なに変な慰めっぽいのしてるの!?」
ノーマとモーゼスのやりとりを眺めていたらしいセネルが、落ち込むモーゼスの肩に手を乗せながらそう言った。
ちょっと。モーゼスを慰めてるはずなのに、どうして私の方を向く。
そっちを向け。こっちを見るな。
そしてセネルは、視線で「な!」と言ってきた。
「何ィ!?そうか!もワイと一緒か!」
「お前と一緒にするな!肩を組むな肩を!!」
セネルの言葉に慰められた(らしい)モーゼスは、パァァッと顔を輝かせこっちを向く。
その笑顔のままこっちへとやって来て、私の肩に腕を乗せた。
必然的にモーゼスとの距離は縮まり、横を向けばすぐ隣に彼の顔が。
今まで上半身裸ということしか見ていなかったけれど、こいつもよく見ると結構かっこいい顔をしてるかも・・・。
ジェイには敵わないけどね!!
「何で、が猥褻と関係あるんだ?」
セネルの言葉を聞いて、ただひとり疑問を感じたらしいクロエ。
首を傾げながら「?」を頭の上に浮かべている。
そんなクロエにノーマは一歩近づき、説明をした。
「ジェージェーがいると、抱きついたり擦り寄ったりするからだよ」
「なるほど」
「クロエまで納得するな!!」
「猥褻コンビの誕生だな」
「セネルも変なこと言うな!ってか『猥褻コンビ』って!異議有りっ!」
「却下」
「ワイとのコンビ誕生じゃな!」
「お前も少しは嫌がれよ!!」
ああもう!
周りのみんなに「猥褻コンビ」と連呼され、モーゼスは愉快そうに笑っている。
ちょっと、そこは普通嫌がるでしょうが。
「猥褻」だよ。猥褻コンビだって。
反論しているのは私だけ。
必死に反論しようにも、数で負けてしまう。
私の言葉は、みんなの「猥褻コンビ」という声でかき消されてしまった。
相方は隣で笑ってるし。
反論する気まったくないし。この人。
反論するのも疲れ、結局私が折れた。
嫌だけど、「猥褻コンビ」誕生の瞬間。
+++++++++
『露滴碑版』という特殊な碑版の装置を起動させ、私達はスムーズに巨大風穴を進むことができた。
これも、ノーマの知識のおかげ。
ノーマがこの露滴碑版のことを教えてくれなければ、簡単に進めなかっただろう。
普段は『元気な少女』というイメージしかなかったけど、彼女は結構博識だった。
ノーマは「ししょーの記録のおかげ」とか言っていたけれど、その記録を覚えた彼女も充分凄いと思う。
「結構下まで来たな」
「そうだな」
何個目かの装置を起動させ、私達は更に下へと降りる。
スイッチ1つで下がる床。
現実世界でいうと、エレベーターみたいだ。
下へと着くと、そこは今までとは違う雰囲気の場所。
薄暗く、道のすぐ横には川が流れている。
「ここが一番下っぽいね」
「み、みんな!あれを見てみろ!!」
辺りを見回しながら先を進み、様子を窺っていと、突然ウィルが大声を出して叫ぶ。
みんなその声に驚き、肩をビクッとさせていた。
ウィルに言われ、指差した方を見るがそこには骨しか転がっていない。
骨が何だと言うのか。
犬かお前。
そんな私達の視線にも気づかず、ウィルはその骨に向かって駆け出した。
仕方なく私達も後を追う。
「巨大生物の骨がこんなにもたくさん!一体何の骨だ・・・?」
骨を眺め興奮するウィル。
地面に転がっている無数の骨を眺め、なにやら息を荒くしている。
それをほっといて、私はみんなから離れた。
ワルターの傷を治すため、連続で行った上級治療術。
それが原因で私は疲れきっていた。
みんなに迷惑がかからないように、戦闘には参加していたのも原因のひとつかもしれない。
川らしき所へ行き、水に手を入れてみる。
綺麗な水だったら飲もうと思ったけれど、真水だと思っていたこの川は海水だった。
戦闘中手を切っていたところに沁みて、少し涙目になる。
「皆さん、よく来てくれたキュ!」
突然、聞き覚えのある声と喋り方が辺りに響いた。
その声がした方を向くと、そこにはポッポの姿。
みんなもポッポの方を向いて話をしている。
私も会話に参加すべく、みんなの元へと足を運んだ。
「ちい〜す、ポッちん!」
「俺達のために、ここで待っててくれたって?悪いな」
「ポッポこそ、皆さんの協力に感謝するキュ!」
協力・・・?
「・・・何の話だ?」
セネルも同じことを感じたらしく、少し間を置いてからポッポに訊ねる。
「ポッポの工房は向こうにあるキュ!先に行って待ってるキュ!」
その質問には答えず、ポッポは工房の方を指差すとさっさと行ってしまう。
話をきこうよ。
ポッポが指差した場所に、私達も慌てて後を追った。
ポッポの工房の中に入ると、そこには水に浮かぶ潜水艦・・・?のようなものがあった。
みんな怪訝そうに眉を顰めている。
「何じゃい、このデカブツは」
「これが皆さんに乗ってもらう、『ポッポ3世号』だキュ!水の中ならお任せだキュ!」
「!」
「み・・・」
水の中!?
そうノーマが叫ぼうとした瞬間、
「水の中だって!?」
クロエが先に大声で叫んだ。
その顔は引き攣っていて、どことなく顔に汗も掻いている。
いきなり叫ぶクロエをみんなが驚きながら見ると、彼女は恥ずかしそうにわざとらしい咳払いをした。
それを見てから、再びポッポが話し始める。
「有人実験を申し出てくれるなんて。嬉しいキュ。キュキュキュ!」
「有人実験・・・?」
「話が食い違っているようだな。俺達がここに来たのは、雪花の遺跡に潜入するためだぞ」
「?だから『ポッポ3世号』に乗るんだキュ?」
どうも、話が噛み合わない。
話がよくわからない展開に行き、私達は困ったように視線を合わせた。
それも気にせず、ポッポは話を続ける。
「みなさんが向かう雪花の遺跡の入り口は、地底湖の中なんだキュ」
「・・・・つまり、入り口は水の中?」
「キュ!」
「だから、雪花の遺跡に行くには『ポッポ3世号』に乗る必要があるんだな?」
「そうだキュ!」
少々驚きはしたけど、これでやっと話の意味がわかった。
私達は雪花の遺跡に潜入するために、ポッポ3世号に乗せてもらう。
それに対してポッポは、ポッポ3世号の実験を私達で行う。
ジェイの言っていた「命を賭けてください」というのは、このことだったのか。
どちらも自分の目的が達成できるのだから、とてもいい案だとは思うけど・・・
「ポッポ」
「なんだキュ?」
「これって、途中で壊れたりしない?」
「耐久性はポッポ2世号と一緒だキュ!大シャコ貝に入った気でいるキュ☆」
「ごめんポッポ、私大シャコ貝に入ったことないや」
・・・って、んん?ちょっと待てよ。
確かポッポ2世号って・・・・・
「2世号沈んだじゃん!」
ポッポの言葉に、思い出したかのようにノーマがツッコんだ。
セネルもそのことを思い出したらしく、少し汗を掻きながらポッポに訊ねる。
「・・・せ、成功確立は?」
「ずばり、一割だキュ!」
そうポッポが答えた瞬間、辺りがシーンと静まり返る。
その後ノーマとモーゼス、そしてクロエのツッコミがポッポの工房に響き渡った。
しかし怒鳴られた本人は「そうキュ?」と不思議そうに小首を傾げるだけ。
「・・・何とかして成功確立を上げる方法はないか?」
ポッポの反応を見て溜息をついたセネルだったけど、気を取り直して再び訊ねた。
今度は少し考え込むポッポ。
「問題は障害物などに当たった時の衝撃吸収なんだキュ」
「ふむ」
「『雄々しきもの』の角を使って、排障器を作ればなんとか・・・」
「雄々しきもの・・・?」
ポッポの口から、聞き慣れない単語が出てくる。
雄々しきもの・・・?
すっごく男らしい生物の角ってことか?(違う)
「ここは雄々しきものの墓場なんだキュ」
「なるほど・・・。モフモフ族の間では、グランゲートのことをそう呼ぶのか・・・っ!!」
「ここは、雄々しきものが死にそうになると必ずやって来る場所なんだキュ」
「ぐ、グランゲートにそのような習性が!?興味深い・・・実に興味深いぞぉぉぉお「うるさい」
思いがけない情報に興奮したのか、声を張り上げるウィルをぶん殴る。
耳元で大声あげるな。
「皆さん、雄々しきものの骨の中にちょうどいい大きさの角がないか探してきてくれないキュ?」
「ちょうどいいって言われても・・・」
「私達はどのようなものがちょうどいいのかわからないのだが・・・」
「大丈夫。王冠のような形をしてるから、きっとすぐわかるキュ」
「よぉおおおしっ!!引き受けよう!!」
「ウィルっち、張り切ってんね〜・・・・ってもういないし!」
大声で言うウィルにノーマが話しかけると、既にウィルの姿はなかった。
工房の扉が開きっぱなしで、遠くの方からウィルの興奮している声が聞こえてくる。
みんなが唖然とする中、ポッポが少し真剣な顔をで話し出す。
「もし、生きてる雄々しきものがいたら、刺激しちゃいけないキュ。死を迎えようとしている偉大な魂に敬意を払ってほしいキュ」
ポッポの言葉にみんなは頷き、雄々しきものの角を探しに工房を後にする。
しかし、みんなが外へ向かう中、私の疲労はピークに達していた。
治療をした時の疲労に加え、巨大風穴までの長い道のりと、その巨大風穴からここまでの道のり。
その途中の戦闘を加え、私はもう立ってるのがやっとだった。
ついでに瞼も重くなり、今にも上下の瞼が仲良くくっ付いてしまいそう。
そういえば、治療をする前に魔物相手の戦闘で上級晶術を連発しまくった気がする。
ああ、それでこんなに疲れているのか。
攻撃用の上級晶術連発、更に治療での上級晶術連発。
疲れるに決まってる。
バカじゃん私。力配分ぐらいしっかりしろよバカ。
「セネル」
私はフラフラになりながら、最後に外へ出ようとするセネルを呼び止める。
「・・・?」
セネルは私の声に気づくと、すぐにこっちへ来てくれた。
「どうした?」
「・・・・・セネル・・・」
「ん?」
「ちょっとだけで、いいんだけどさ・・・」
「?」
「休んでもいいかなー?・・・なんて・・・」
自分だけ休もうなんて考えてる私自身に嫌になり、私は小さく呟いた。
今、シャーリィを助けるためにみんなは一生懸命になってる。
みんなだって疲れてるだろうし、休みたいに決まってる。
それはわかってるんだけど・・・。
わかってるんだけど・・・
もう限界・・・。
「わかった」
「えっ」
ダメだ。
そう言われるのを覚悟していたのに。
驚いてセネルの顔を見上げる。
「角は俺達が探してくるから、はゆっくり休んでろ」
「・・・・・・いいの?」
「毛細水道の時から、ずっと辛そうだったしな」
「なんで知ってんの!?」
「いつもバカみたいに元気なのに、ずっと静かだった」
「・・・・・・・・・」
バカみたいに元気って・・・。
「ゆっくり休んで、もとの元気なになれよ」
「ありがと」
セネルは優しく微笑み、そして私の頭を撫でてから去っていった。
優しい。
セネルの優しさが嬉しくて、でもその反面・・・自分のバカさ加減に嫌になる。
後先考えないで行動するから、疲れて、そしてみんなの足を引っ張ることになるんだ。
・・・今度からは、ちゃんと考えてから行動しよう。
今回の事を学習して、次回に活かせばいい。
うん、今度はこんなヘマはしない。
自分自身に言い聞かせ、私は両手で頬を叩いた。
「ってことなんで、ここで寝ていい?邪魔かな」
セネルの去った後を暫く見た後、隣にちょこんと立っているポッポに話しかける。
ポッポは嫌な顔ひとつせず、「どうぞ」と言ってくれた。
機械ばっかのこの場所で、私は邪魔にならないように隅っこの方にしゃがんで静かに目を閉じた。
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モーゼス後半喋ってなさすぎ・・・。