04
「なーんだ。そういうことは最初に言ってよね」
「・・・・・・・・・あのな」
「まさか、そんな勘違いをしているとは思わないだろう」
シャーリィがアイドルだと思い込んでいた私。
でもそれは勘違いだったらしい。
シャーリィはセネルの妹で、この世界のアイドルなんかじゃなくて。
空飛ぶ男もモーゼス(半裸野郎)も、シャーリィのファンというわけでもない。
だったらどうしてシャーリィは攫われたの?とも思ったけど、それ以上は別に興味はないので口には出さなかった。
「んじゃあ、改めて。―――セネルの最愛の妹シャーリィを、変態野郎から連れ戻すわよ!」
もう一度気合を入れてこう叫んだ。
誰も「おー」とのってくれる人はいなかったけれど。
私の行動にもう一度溜息を吐き、セネルは山賊のアジトへと足を踏み出した。
+++++++
「なーんで、こうなるかな」
「・・・・・・・・・・」
薄暗い中、私はセネルを睨みつつこう呟いた。
「まあ、こうなってしまったものはしょうがない。先に進むぞ」
「そうだな」
「へいへーい」
ウィルがそうまとめ、私達は壁を頼りに前進した。
そもそも、私達がこーんな暗い場所にいる原因はセネルにある。
山賊のアジトに乗り込んだものの、モーゼスの安い挑発にセネルがのってしまい、仕掛けられた落とし穴へと落ちてしまった。
その仕掛けがあった床は明らかに怪しさ満載だったので注意しようと思ったのに。
そんな注意をする間もなくセネルが落ちやがったんだこんちくしょう。
おまけに。
落ちるならひとりで落ちればいいものの、セネルは私の腕を掴み道連れに。
驚いた私は、思わずそこら辺のものにしがみ付く。
そのしがみ付いたのがクロエで、クロエも同じようにウィルを掴んで、ウィルはその重さに耐え切れず、結局はみんなして落とし穴へゴー。
そして今に至る。
「セネルってばなーんで私の腕を掴んだわけ?あ、ひとりで落ちるのは心細かった?しょうがないなぁ、私の胸でお泣きなさい」
「勝手に変な解釈するな。あの時は思わず・・・・・・」
「思わず?」
「・・・・・・・・・・・・すまなかった」
セネルを責め続ければ、本当に申し訳なさそうな表情をするものだから思わず言葉に詰る。
本当はそんなに責める気もなかったんだけど、こんな顔されるとこっちが悪いような気がしてきてしまう。
いまだにしょぼんとしているセネルの肩に手を乗せ、「ま、誰にだってこういうことあるよ」と言っておいた。
「・・・・・・・・・・・・すまない」
「あーもう、いいってば。もう気にしてないからシャキッとしろお兄ちゃん!妹助けにここまで来たんでしょうが」
「・・・・・・・・・・」
「そーんなしょぼくれた顔してると、シャーリィが不安がるでしょ?ね?」
「・・・・・・・・・・・そうだな」
「そうそう」
私がありったけの力で慰めると、少し元気になったセネル。
「ありがとう」と礼を言ってくる彼に、苦笑しか返せない。
セネルをそこまで元気なくさせたのは私だしね。
「明かりが見えてきたぞ」
セネルに対し苦笑をし続けていると、クロエがそう言った。
彼女の示す先には、確かに微かな明かりが漏れてきている。
やっとこの薄暗い場所から開放されるらしい。
私達はそのまま光の方へと足を動かした。
+++++++
「ねー、ここじゃない?シャーリィがいるのって」
目の前にある部屋の前で、私は指を示した。
私の言葉にセネルたちはその部屋に近づき、ノックをする。
妹がいるかもしれないのにわざわざノックをするなんて律儀だな・・・・。
そう思いながら成り行きを見守っていると、部屋の中から女の子の声が聴こえた。
「お兄ちゃん・・・・・・?」
「シャーリィ!」
その声はシャーリィのものだったらしく、セネルはドアに向かって声を張り上げる。
ドアノブに手をかけると、鍵が掛かっているらしくドアが開かない。
くやしそうな顔をしてから、セネルはシャーリィに少し下がっているよう指示をし、自らの拳をドアにぶつけた。
開かないのなら、無理矢理にでもぶち破ってしまえばいい。そういう考えなんだろう。
・・・・・・・・でも
「ちょっとセネル、それはやめようよ」
「どいてろ!」
「ダメだって。生身でドアをぶち破ることなんて出来ないでしょ?それよりも、鍵を探した方が・・・・・・」
「そうだぞ、クーリッジ。の言う通りだ」
「そんなことしている暇はない!」
いくらやめろと言っても殴ることを止めないセネル。
ドアを殴る拳からは血が滲み始めている。
それでも構わず拳をぶつけ続けるセネルの頭を、私は思いっきり叩いた。
「いたっ!」
「ほら、拳でドア殴るから痛くなるのよ」
「いやこれはお前が殴ったから・・・・・・」
「自分の拳を見たらどう?血が出てるじゃない」
「・・・・・・・!これぐらい・・・・・・」
「セネルはどうってことないかもしれない。でも、シャーリィは違うわ」
「シャーリィが・・・・・・?」
「そんなにボロボロになってまで助けてもらいたくないと思う。シャーリィはセネルに血を流してほしいわけじゃない」
「そうだよ・・・・・・お兄ちゃん、もうやめて」
私の言葉に続けるように、扉の向こうからシャーリィがセネルに話しかける。
その声は涙声だった。
「私、お兄ちゃんに血を流してもらいたくない・・・・・・」
「シャーリィ・・・・・・」
「お願い」
「・・・・・・・・・・・わかった」
シャーリィの願いに、セネルは少し黙ってから小さくそう答えた。
やっぱり妹の言葉は偉大だね。
まるで鶴の一声だ。
扉越しにすぐ助けると告げ、セネルは鍵を探し始める。
「はぁ・・・・・・」
「よかったね」
隣で安堵の息を漏らすクロエに、私は微笑みながら話しかけた。
クロエは「ああ」と小さく返事をする。
鍵を探し続けるセネルを見ながら、私達は小さく微笑んだ。
部屋の周りには鍵は無かったらしく、残るは隣の部屋だけになった。
いや、もともとなんかあるだろうな〜とは思っていたけど、誰も行こうとしなかったし・・・・。
私はその部屋のドアノブに手をかけ、開けた。
ガチャッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・パタン
閉めた。
「・・・・・・・って、何閉めてんだよ!」
「いやだってさ、部屋の中にあの半裸野郎がいたから思わず・・・・・・・・ねぇ?」
「ねぇ?じゃない。行くぞ!」
「うぇーーーー?」
嫌がる私を押しのけて、セネルは扉を開けた。
部屋の中では、あの半裸野朗が狼と一緒にオネンネしている。
私達が来た事に気づくと、モーゼスはゆっくりと起き上がり、こっちへと歩み寄ってきた。
「遅かったのう」
「遅くてすみませんねぇ」
「って、ワレさっき扉開けてすぐ閉めたじゃろ!!」
「だって、部屋の中で裸(上半身)で狼と戯れてるから・・・・・・」
「んなことしちょらんわ!!」
私の言葉にモーゼスはツッコみ、想像してしまったのかクロエは顔を赤らめていた。
「鍵はどこだ」
私とモーゼスの会話に興味を示さず(そりゃそうだろうけど)、セネルは急かすようにモーゼスへ言った。
その声はどこか怒っている感じ。
それはそうだろう。モーゼスは大事な妹を連れ去った張本人なんだから。
「そんなにこの鍵が欲しいんか?」
そう言って、モーゼスは鍵をちらつかせる。
「よこせ!!」
「いやじゃ」
「な・・・・・・っ」
「そがあに鍵がほしかったら、力ずくで・・・・・・・・・・」
このままじゃあ「力ずくで」とか言いやがって、戦闘になりかねない。
そんな無駄な時間は割いてられないので、私はモーゼスが言い終わる前にぶん殴った。
「ぐほぉっ」
私の右ストレートはモーゼスの左頬に綺麗に入り、軽くぶっ飛ぶ。
そのぶっ飛んだ際に落ちた鍵を拾っておく。
「鍵ゲット」と後ろを振り返れば、後ろの三人は親指をグッ☆としていた。
これは「ナイス!」ということなんだろうか。
ってか、この三人ってこんなキャラだったか?
「よくやったぞ」
「あんな半裸男、相手にしている時間は私達にはないからな」
「これでシャーリィを助け出せる!」
それぞれの思いを口々に言い、三人は私の頭を撫でた。
クロエやセネルにならしてもらってとても嬉しいけど、ウィルなんかにされてもなぁ(失礼)。
そんな事を考えながらも、私はセネルに鍵を渡す。
・・・・・と同時に、部屋の中にもう1人山賊が現れた。
「あにき!・・・・・・・・・・・って、あにきぃぃぃぃいいぃいい!!?!??」(汗
あにきというのは多分モーゼスのことなんだろう。
その現れた男は、モーゼスが鼻血を出し、部屋に転がっているのを見ると大声を上げた。
「お、おう・・・・・・チャバ・・・どうしたんじゃ?」
「どうしたはこっちの台詞だよ!何があってこんな・・・・・あ、まさかもうここにも赤い軍団が!?」
違うよ。
思わずそう言ってしまいそうになるけど、ぎりぎりのところで言葉を飲み込んだ。
大事なあにきをこんなにしたのは私だとしれば、きっと仕返しとかされるに違いない。
とりあえずここは印象をよくするために、いい人を演じよう。
「だ、大丈夫?そこの半裸野ろ・・・・・・ダンディーなお方!!」
一度息を吐いてから、たったったっと床に転がるモーゼスに駆け寄り、そう言葉をかけた。
「ああ酷い怪我。一体誰がこんな・・・・・・っ!」
「ワレじゃろうがっ!?」
いきなり態度を豹変させる私に、モーゼスは困惑しながらも私が犯人だと言いかける。
とりあえずバレないために、口封じ(顔面をぶん殴る)をしておいた。
それによってモーゼスは黙り(気を失い)、ぐったりとしている。
その光景を見ていなかったのか、チャバと呼ばれた男は目を輝かせて私を見ている。
「見ず知らずの人なのに、あにきを心配してくれるなんて!」
「いやぁ、傷ついた人を放っておけないもの」
「(うそつけ・・・・)・・・・・・それよりも、さっき”赤い軍団”がどうのと言っていたが、なんのことだ?」
「ああ!そうだった!」
ウィルの質問に、忘れてた!と言い出しそうなくらいの勢いでチャバはハッとする。
「赤い軍団が入り口から攻めて来てるんです!」
「もっと早く言え!!」
そんな重大なことを忘れてたのかお前は!
私の怒鳴り声にチャバはビクッとし、「すみません・・・」としゅんとする。
その仕草がまるで仔犬のようで、思わず萌える。
「い、いや、あにきが倒れてたんだもんね。忘れても仕方ないよ、うん」
「そうだよね!」
開き直り早いなおい。
「そうだ、皆さんは早くメルネスを連れて裏口から逃げてください!ここは俺達が食い止めるんで」
「あにきの指示無しに、勝手にそんなことしてもいいの?」
「別にいいですって。後であにきにも説明しときますから。さあ、早く」
「あ、うん」
あにきの威厳ってないのか。
そう思いながらも、チャバの言葉にありがたくそうさせてもらう。
簡単に裏口への道のりの説明をしてもらい、セネルの方へ振り返った。
「今の聞いてた?さっさとシャーリィ助け出して・・・・・・・・・・・って、もういねぇっ!!」
さきほどまでセネルがいた方を振り返るも、すでにその場にセネルはいなかった。
私の視線の先には部屋の扉が開いているだけ。
シャーリィのことになると、以上に行動が早いらしい。
多少そのことに呆れつつも、私はウィルと共にシャーリィのいる部屋へと向かった。
+++++++
「な、なにがあったの?クロエ」
シャーリィのいた部屋へ入ると、そこにはおいおいと泣いているセネルと、困り果てたクロエがいるだけ。
部屋の窓は開いていて、カーテンがゆらゆらと揺れていた。
私の質問にクロエが答えようとすると、突然セネルが大声で泣き出す。
「うあああああああぁぁああぁあああっ!!シャーリィ!!シャァアアリィィイイ!!!!」
「・・・・・・・・・・せ、セネルに一体何が・・・!?」(汗
「実は・・・・・・」
大声で泣き続けるセネルを横目で見ながら、クロエはさっき起きた出来事を語りだした。
セネルとクロエが鍵を使ってシャーリィの部屋へ乗り込むと、そこで見たものは空を飛ぶ男がシャーリィを黒い球体のようなもので包み、連れ出そうとする姿だった。
再び連れ去られそうになった妹を助けようと駆け寄るセネルだったけど、セネルがシャーリィの元へ着く前に男はシャーリィを連れ攫ってしまった。
その直後、突然セネルが泣き出し・・・・・・・今に至ると。
クロエの話を聞き終わり唖然としながらも、未だに泣き続けるセネルへと近づく。
「ざ、残念だったわね・・・・・・」
「うっ・・・・・ううっ」
「ほら、また助けに行けばいいじゃん?ね?」
そんな私のフォローも虚しく、セネルは大声で泣く。
「うわぁぁあああっ!!一度ならず二度までも!二回もシャーリィをまんまと連れ去られてしまったぁ!!ああああ俺はお兄ちゃん失格だぁぁああああっ!!たったひとりの妹も救えないなんて、俺の爪術は一体なんのためにあるんだ!?もうこうなったら深爪してやる!!」
「ちょ、よくわからないけど深爪は痛いからやめた方がいいよ!それにシャーリィだって、セネルが深爪することなんか望んでないって!」
「その説得も変だぞ」
あのセネルが!
クールだぜオーラを出していたセネルが、まさかこんなにへタレだったなんて。
私は驚きのあまり、口が塞がらない。
だけど、いつまでもメソメソしているセネルを見ていてイライラしてくる。
「このシスコン!!こんな風に嘆く暇があるなら、さっさとシャーリィの後を追うとかしなさいよ!お兄ちゃんなんでしょ」
「はっ、そうだ、俺はシャーリィのお兄ちゃん・・・・・・っ!!」
私の言葉に、セネルは泣き止み立ち上がる。
シャーリィが連れ去られた窓を見つめ、拳を握り締めた。
「待ってろシャーリィ!お兄ちゃんという名の白馬の王子様が、今助けに行ってやるからな!!」
うおおおお!!と言いながら部屋を飛び出すセネル。
その後を追うウィル。
部屋に残った私とクロエは、疲れきった感じで溜息を吐く。
「私、こんなに重症なシスターコンプレックス初めて見たわ」
「私もだ・・・・・・」
もう一度溜息を吐いて、私達もセネルの後を追った。
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セネルが変でごめんなさい。