01
「ねー」
「・・・・・・・・・・」
相変わらず無視かこの野郎。
オレンジ色のおっさんに連れられ、ここ「灯台の街」にやってきた私と青年。
本来なら色々と訊ねられたりするはずだったけど、ここに来た途端オレンジのおっさんは用事でいなくなってしまった。
「噴水広場へ行け」とのことで、私達はそこへと向かっている最中。
少しでも仲良くなろうと青年に話しかけるも、相変わらず無視。
私が呼びかけては沈黙。が、ここ5分と続いている。
「ねぇってば」
「・・・・・・・なんだよ」
やっと返事をしてくれたと思ったら、なんとも不機嫌そうな顔を向けてくる始末。
少し口が引き攣りながらも、私は青年に笑顔を向ける。
「名前は?」
「なんで教えなきゃいけなんだ」
「だってさ、名前わかんないといつまでも”グリーンの瞳の青年”って呼ばなきゃいけないわけよ」
「誰も頼んでないぞ」
そりゃそうだけどさ。
「とにかく、名前知りたいな〜なんて」
「・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ私の名前教えるから、そっちも言えよ」
「おい、何勝手に決めて―――」
そう言いかける青年を無視し、私は自分の名前を名乗った。
「私は。はい、そっちのお名前は?」
暫く不満そうにしていた青年だけど、観念したのか溜息を吐きながら「セネル」と小さく答えた。
その様子がなんとなく可愛い。
よくわからないけど。
「セネルか」
「ああ」
「セネル・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「セネル・・・・・?」
「人の名前を疑問系で言うな」
セネル?
その名前にどことなく聞き覚えがあって、何度も繰り返す。
そして、セネルの身体をまじまじと見つめると、セネルは「なんだよ・・・」と言いながら顔をピンクに染めた。萌え。
セネルという名前、んでもってこの服・・・・・・顔・・・・・・・・・
「っあーーーー!!セネル!!」
「・・・・・・なんだよ」
「そうだよ!セネルだよ!」
「だからなんだよ」
何度も「セネルだ」「セネルだ」と叫ぶ私に、明らかに不審そうにするセネル。
そうだよ思い出した!この人TOLの主人公の「セネル」だよ!
前に(TODの世界に行く前に)、友人に攻略本を見せてもらった記憶がある。
今はどうだか知らないけど、友人が「最新作なんだよ〜」と言っていた。
やーっと思い出した。ああスッキリ。
「・・・・・・つーことは、ここはTOLの世界ってことなのかしら?」
「さっきから、何ボソボソ言ってんだよ」
さっきから挙動不審にも見える私に、不思議そうな表情をするセネル。
少しは心配してくれてるのかもしれないかもしれないかも・・・・・・・・。
「あーえーっと、ううん。なんでもない」
「・・・・・・・・?」
周りの建物を見てみれば、うーん・・・・・・ゲームで見たような?
1回しか見たことないし、キャラの設定とかよくわからない。
唯一わかることといえば、キャラの顔と名前ぐらい。その他はさっぱり。
とにかく、この世界はTOLで。
なんでかはわからないけど、私はこの世界に来てしまったと?
「・・・・・・・・・・・・原因は、やっぱあのババァか」
あんのくそババァ。
一体何のつもりなのかしら。
今度会ったら、洗いざらい話してもらうから覚悟しなさい。
私がブツブツ言うのを横目で見らがらも、もう気にしていないのかセネルは何も言ってこなかった。
+++++++
暫く街を進んでいくと、急に賑やかな声が辺りに響く。
視線を上げると、たくさんの人と噴水が。
どうやら目的地に着いたらしい。
「ここ?」
「だろうな」
噴水あるしね。
こんな私の呟きを気にもせずセネルは進む。慌てて私も後を追う。
セネルが歩いていると、ひとりの少年・・・?がこっちに近寄ってくる。
その少年・・・?はこの世界では珍しくダボダボな服で、妙に親近感が沸く。
しかしせっかくの短パンだというのに、素肌はタイツかなにかで隠れてしまっていた。ああ生肌が!
長い黒髪を頭の上で束ね、歩くたびにそれが揺れて可愛らしい。
肌は雪のように白くて、その白い中での藍色の大きな瞳が印象的だった。
セネルに歩み寄り、その子はにっこりと微笑む。
その笑みが可愛くて綺麗で、思わず凝視してしまう。
ああ君を食べてしまいたい・・・・・・っ!
「そこのお兄さ・・・・・・・・・・なんですか、あなた」
セネルに呼びかけようとしたけれど、私の視線を感じたらしくこっちを振り返る。
その視線が余程不快だったらしく、さっきまでの可愛い笑顔は消え、眉間に皺を寄らせていた。
「・・・・・・ああっ!可愛い顔がもったいない!」
「な・・・・・・っ!?」
予想外の言葉だったようで、少年は目を見開いた。
隣にいるセネルは「はぁ?」みたいに呆れ顔。
「な、何言ってるんですか」
「違う!私の欲しているのはそんな顔じゃないの!笑顔よ笑顔っ!!」
「何の話ですか!!」
「だーかーら笑顔だってば!スマイルよっ!!ほら、さっきみたいににっこりと微笑んで!私に!!」
「こっ、こんな不審者に向ける笑顔なんてありませんよ!」
「不審者って誰?あ、セネルのこと?それは誤解よ少年。セネルは上半身タイツだけど不審者ってわけではないから」
「俺は関係ないだろ!」
「違いますよ!不審者はあなたですよ!」
「あ、あなた!?それじゃあ私がダーリン役で君がハニー役ってことでOK?」
「ああもう!話が通じない!」
あなた人間ですか!?
そう少年は言って頭を抱えた。
失礼ね。人間に決まってるじゃない。腐ってるけど。
突然頭を抱え込んだ少年を指差し、私は呆れ顔のセネルに訊ねる。
「この子どうしたの?急に頭抱え込んで」
「頭がおかしいお前と会話して疲れたんだろ」
「失礼ね。私、頭おかしくなんかないわ。腐ってるだけで」
「それで充分だと思うけどな」
「気の毒に・・・」そうセネルは呟いて少年を見つめた。
つーか、この美少年も見たことがある気がする。
えーっと?なんかアルファベットで表せたような名前だった気が・・・・・・。
「A?いや違う。G・・・・・ってどんな名前よ」
「何言ってるんだお前」
「えーっと、D・・・なんかイントネーションは似てる気が」
「おい、聞いてるのか?」
「あ〜・・・K!いや、違うな。やっぱDなのかしら?でも名前としてはイマイチ・・・・・・」
「無視かよ」
アルファベット、アルファベット。
思い出せそうで思い出せない。ああ、魚の小骨が喉にあるううううう!!!!
「ちょっとキミ!」
「・・・・・・・・なんですか、変質者さん。僕に話しかけないでもらえますかこっちまでおかしくなります」
「なんか棘ってる!いやいや、そんなことよりキミの名前は?」
「いきなりなんですか」
「名前は?ゆあねーむ!!」
「生憎、変質者に教える名前はありませんので」
そう言って少年は笑顔を向けた。
可愛いな!そんな笑顔向けると食べちゃうぞ。
ああでも名前名前が思い出せない!!
えーっと、FじゃなくてPちゃん?って犬かーーーー!!(自分ツッコミ)
E・・・U・・・N・・・M・・・・・いや、このこはどっちかというと「S」っぽい。
じゃねーよ。・・・・・・えーっと、えーっと!!
「あっ!」
「「!?」」
「わかった!ジェ・・・・・・・・」
「!」
ジェイだ!
こう言おうとした時、少年の手が私の口を塞いだ。
そしてそのままセネルから遠ざかり、比較的人の居ない方へ。
そして辺りを見渡してから、口から手を離す。
「いきなり何!?はっ、もしかして出会ってまもないのに私を襲う気―――」
「安心してください。そんなことは絶対にありえませんので」
「じゃあ私が襲ってあげるからそこに寝転びなさい」
「どうしてそういう話になるんですか!?―――それより」
私の言葉に顔を赤くしつつも、突然ジェイは真剣な顔つきになる。
その表情はとても冷たく、思わず黙ってしまうほど。
「・・・・・・・どうして、僕の名を知っているんです?」
「え?なんのことかな〜?」(汗)
「とぼけないでください?さっき、言いかけたでしょう」
「・・・・・・・・・・・」
「どうしてですか?」
ジェイは私に詰め寄り、更に冷たい目を向ける。
「・・・・・・・・そ、そんなに見つめちゃイヤン」
「・・・・・・・・・」
間の抜けた声でそう言えば、今度は呆れ顔を私に向ける。
そして近づけていた顔を離し、反対側を向いた。
あ、あきらめてくれた?(汗)
まさか名前を言い当てたくらいでこんな展開になるとは思っていなくて、内心冷や冷や。
背中には冷や汗をびっしり掻いてしまった。
ジェイ越しに向こうを見れば、セネルが不思議そうにこっちを見ている。
「教える気、ないみたいですね」
「そ、そうでございますね〜・・・」
「・・・・・・・・・・ま、今回は見逃してあげますよ。今回は」
「う、嬉しいなー・・・・・・(棒読み)」
やたら「今回は」を強調して言うジェイ。
次はないってことでしょうね。
こーんな可愛い顔して、恐ろしい表情する子だわ。
そして恐ろしく肌が白い。なに食ったらそんな白くなるんですか教えてください。
んでもって睫毛すっごい長いからね!唇なんてぷるるんっとしていたからね!!(興奮)
もう腐った私のハートにクリーンヒット。
「・・・・・・・・・・変な目で見ないでもらえませんか」
そして、じっと見つめられる事が恥ずかしいのか、ちょっと照れた表情。
白い肌が、ちょっぴりピンク色に染まっていて・・・・・・
「萌え!!」
「は?」
おおっといけねぇ。つい本音が。
この世界に「萌え」という単語はないのか、ジェイは意味がわからないという表情をした。
困惑気味のあなたも素敵(そればっか)。
「あのさ」
「なんです?」
「なに食べたらそんなに肌白くなるの?」
「は?」
「どうしたらそんなに細くなれるの。どうしてその唇はぷるんってしてるの思わず吸い付きたくなっちゃうんだけど」
「知りません!!っていうか何言ってるんですかあなた!?」
「やっぱり!!やっぱりキミがハニー役なのね!OK☆」
「何意味わからないこと言ってるんですか!?だいたい僕は男ですよ!?」
「うん知ってる。じゃあまずはエプロン着けて。”おかえりなさいア・ナ・タv”からいってみよう」
「全然わかってないじゃないですか!って、そのエプロンはどこから!?」
「細かいことを気にしてちゃあいけないわ少年よ!」
「うわぁあああああ」
「そのくらいにしてやれ」
困惑する(怯える)ジェイを捕まえ、無理矢理エプロンを着せようとした時、ずっと傍観者だったセネルが私を制した。
「ええー」と言う私からエプロンを取り上げ、腕を掴む。
きっと、私がジェイに変なことをしないように押さえてるんだ。
「ちょっとセネル!もうちょっとで私の野望がっ!!」
「お前の野望なんか知るか」
「た、助かりました・・・・・・」
そう言いながら肩で息をするジェイ。
ちょっと大げさじゃない?
「今のうちに逃げろ。また変なことされるぞ多分」
「セネルってば失礼ね」
「そう思うんだったらそう言われないような行動をとれ」
「こーんな可愛い子がいたら、セネルだってこうしたくなるでしょ?」
「しない」
「そんなアホな!―――それよりもこのエプロンを・・・・・・・・っていない!!」
私の野望を思い出しジェイの方へ振り返れば、その場にはもうジェイはいなかった。
急いで辺りを見渡したけど、ジェイらしき少年はいない。
チィッ!逃げられた!!
「あーあ、セネルのせいで〜」
「あのな」
セネルは溜息を吐き、やれやれといった表情をする。
そんなセネルに一言文句を言ってやろうとすると、突然どこからともなく音楽が流れ出した。
そして、音楽にのって野太い声が歌いだす。
「ようようそこ行くベイベー♪街の掟は知ってるか〜い?」
声のした方を見れば、二人の男女と何人かの少女達がこっちに向かいながら歌っている。
その状況に、私とセネルは唖然とする。
なにこの人達。
私達の存在を無視し歌い続ける彼ら。オマケに街の人々まで歌いだす始末。
まるでミュージカルのよう。
「ケンカはダメだぞ!若者よ!!なあイザベラ君」
「はい」
「ケンカはしてません」
「な、だって、今まさに言い争いを・・・・・・」
「してません。痴話喧嘩です」
「なんと!痴話!」
「違う!!お前らも信じるな!」
もうセネルってば。冗談よ。
「キミ達夫婦だったのかー!」と言うおっさんに対し、「違うって言ってるだろ!」と誤解を解くのに必死なセネル。
お前も何か言えよという視線がきたけど無視。
さっきのお返しよ。
よくわからないけど、話は段々と喧嘩の方向へ。
最終的に「夫婦!」「違う!」と言い合いながらのガチンコ勝負へとなった。
「あはは、愉快愉快」
その勝負は、オレンジのおっさんがこの場に来るまで続いた。
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ゲームの内容と色々と違う。
ジェイがなんだか可哀想な子に・・・。